貸金底上げの基本は生産性の向上にあり、そのためには産業活性化策と人材育成支援策等を有機的総合的に実施していくことが基本となる。
ここで付け加えておくべきは、後期高齢者や障害者等、通常の勤労が困難な人々については、ボランティア活動等、何らかの社会的活動の機会を公的に提供し、その対価を支払うべきだということである。
就労インセンティブを殺ぐ生活保護制度は、その利用者に対してスティグマ(負の賂印)を与え、社会的排除を進める。
これを避けるには、あらゆる人が何らかの形で社会にかかわる仕掛け作りを行い、ささやかでも「自立」の意識を抱ことができるようにすることが、大切であると思われる。
ワーク・ライフ・バランスの支援(家族機能の社会的補完)三つの効果第五は、ワーク・ライフ・バランスの支援である。
これには三つの効果が期待される。
一つは、女性の職場進出を本格的に進め、男女が対等の条件で働き、有能な女性労働力を十二分に活用できる環境を整えることである。
それは「一石二鳥」の効果を持つ。
女性が働くことで租税負担者が増え、税率抑制あるいは行政サービス改善のファクターとなる一方、有能な女性の活用によりイノベーションを喚起できるからである。
二つには、心身の健康を維持することで働き手の生活の質を向上させるとともに、そのクリエイティビティIを活性化させ、企業パフォーマンスの向上につなげることである。
知識経済における労働の成果は、単に労働時間に比例するのではない。
創造性が労働生産性向上にとってますます重要になってくるのであり、そのためには仕事と個人生活のバランスを図り、心身両面での健康を保つことが、結果として企業の業績向上にも寄与する。
さらにもう一つの狙いは、正社員・非正規社員の貸金の二重構造を打開し、非正規社員であっても生活維持賃金が確保できる賃金体系を実現するためである。
なぜならば、これまでの正社員の賃金は、配偶者や子供等扶養家族の生活費を含めた生計維持貸金が前提となっており、その分の貸金原資を捻出するためには、非正規賃金を低く抑えざるを得ないという事情もあったからである。
就業形態や家族構成にかかわらず、職務内容や成果に応じて公正に貸金を支払うためには、労働者が企業に扶養家族分を考慮してもらわなくても家族全体がきちんとした生活が送れる環境作が必要になる。
そのためには、男女ともに働く意欲と能力があれば働きやすいこと、逆にいえば、男女がともに仕事と家庭生活のバランスを維持できることが不可欠となる。
実現のために必要な環境作りそのためには、まずもって、これまで女性が家庭内で行うと考えられてきた育児と介護を「社会化する」という共通認識が形成される必要があろう。
ここでいう「社会化」は、育児、介護を保育所や介護ビジネスが積極的に担うという意味合いのみならず、男女を問わず親や子自らが、その家族の育児や介護を行いやすい社会的環境を整えるという意味合いも含まれている。
具体的には、民間ビジネスの創意工夫を活かす形で、育児・介護サービスが多様化されるような制度改革・施設整備を進めることが求められる。
同時に、企業内育児施設を設置する場合に助成金を給付したり、男女問わず介護休暇が取得されやすいように助成等を行うべきであろう。
加えて、労働の「時間」および「場所」についての個人の選択の自由度を向上させることが、「ワーク・ライフ・バランス」の実現にとって重要なファクターとなる。
その意味で、労働時間が主体的に選択できる「フレックス・ワーク」の環境作りが重要であり、また「在宅勤務」が可能になれば、育児・介護を抱える社員にとって仕事と家庭生活の両立が容易になる。
半面、「フレックス・ワーク」や「在宅勤務」には働き過ぎの問題が付きまとうのも事実である。
こうした両面を考慮して、「年休カレンダー制」の義務化をはじめとした健康管理義務の強化、在宅勤務時の業務費用負担の配分ルール等と一体で、労働基準法の対象外とする「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度が導入されてよいであろう。
ホワイトカラー・エグゼンプションの本来機能「ホワイトカラー・エグゼンプション」については、「働き過ぎを助長する」との理由で二〇〇七年通常国会での法案提出が見送られることになった。
そこで、この制度が「働き方の多様化」を推し進め、「ワーク・ライフ・バランス」を推進する施策となるための条件についてやや立ち入って検討しておこう。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度は、裁量性・専門性の高い業務に就いている働き手に'労働時間と生活時間の配分をゆだねることで、「生産性の向上」と「生活の質向上」の両立を実現しやすくすることに本来の趣旨があった。
その意味では、それは「働き過ぎ」の問題を助長するどころか、労働時間を短縮するとまではいわないまでも、むしろ働き手の一日二四時間を、「ワーク・ライフ・バランス」の観点から、全体としてより有効に使うことのできることをサポートする性格のものであるといえる。
「ホワイトカラー・エグゼンプション」制度のオリジナルはアメリカにあるが、その普及の背景には、同国では知識産業化や家族形態の多様化が世界で最も進んでおり、裁量性・専門性の高い業務が多く、労働時間と生活時間の配分を自主的に行うことへのニーズが高いという事情を指摘できる。
わが国でも知識産業化や家族形態の多様化は今後の方向性であり、この制度の導入は基本的には妥当な判断といえる。
しかし問題は、わが国のホワイトカラー部門のあり方が、知識社会の時代に十分対応できているのかどうかという点にある。
日米での雇用者の職種別構造を比較すると、専門職の比率に大きな差がある。
アメリカ(二〇〇四年)の二四・四%に対し、日本(二〇〇二年)は一三・八%にとどまっている。
こうした日米での職種別就業構造の違いの背景としては、以下のような事情を指摘できる。
すなわち、一般に米国では職務が明確化され、プロフエツショナリティーが尊重されるのに比べ、仕事の範囲や責任が暖味でジェネラリスト志向である日本では、十分な裁量性・専門性を持って自主的な労働管理が可能になっているホワイトカラーは必ずしも多くないといえよう。
このことは、裁量労働制がすでに適応されている労働者に対するアンケート調査(厚生労働省「裁量労働制の施行状況等に関する調査」二〇〇五年)によれば'「与えられている業務の裁量性が薄い」と答えている労働者が二割以上存在していることからもうかがわれる。
さらに、与えられる仕事の性格の次元にとどまらず、適正な業務量をどう実現するかという次元の問題がある。
先の厚生労働省の調査では、「業務量が過大」と答えている労働者が半数近に上っており、「労働時間が長い」と不満を持っているケースも四割前後ある。
日本労働政策研究・研修機構の調査(「働き方の現状と意識に関するアンケート調査結果」)によれば、所定労働時間を超えて働く(残業手当の有無にかかわらず、就業規則に記載された所定労働時間を超えて働く)理由として、「そもそも所定労働時間内では片付かない仕事量だから」と答えた割合が五九・六%と、最大理由となっており、職階別には課長クラス、係長・主任でその傾向が強なっている。
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